仲間とよく行っていた海辺に、あの日は彼と2人きりで。
ある時期、みんなの中にいる時であっても、気付けば2人で話をしている事が多かった。
けれど、今日は本当に、初めての2人きり。
少し酔った彼は、浜辺にそのまま寝転んで、
わたしはその彼の顔を、黙ってじっと見詰めていた。


夜の海は、寄せては返す波の音しか聞こえては来ず。
その間に、低い彼の寝息とも吐息とも取れる息遣いが、静かに周囲を乱していた。


幾度も来た事があったその場所が、まるで違う場所の様に思えた。
あんなに遠いと思っていた彼の事を、こんなにも近くに感じられた。
真っ暗な夜の海に、想いごと吸い込まれそうになった。


「・・お前がいてくれるから。だから俺はやっていけているんだよ」


長い沈黙の後、波に掻き消されそうな程の声でそう呟いた彼は、
それまで見て来たどの彼の姿とも違っていて。
そして、愛しく思えた。


ひんやりとした空気を肌で感じながら、彼をただただ抱き締めたかった。
体が触れるか触れないか程の距離で、口づけよりも遥かに熱い互いの想いを、
お互いに感じ合っていたあの夜。
海は本当に穏やかで、波の音はいつしかずっと遠くにあった。






SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送